リノベーション会社の施工事例を見て、「この広さと内容でこの金額なら、自分たちにもできそう」と感じることがあります。
ただし、数年前に完成した事例の金額を、現在の予算へそのまま当てはめることはできません。工事費は資材や設備だけでなく、職人の労務費、運送、現場管理、設計・申請など複数の費用で構成され、同じ間取りでも着工時期や工事条件によって変わるからです。
この記事では、昔の事例価格が現在とずれやすい理由と、「もっと安くなるまで待つ」以外の現実的な判断方法を整理します。価格上昇を理由に契約を急がせるのではなく、今の条件で無理のない総予算をつくるための解説です。
結論:昔の事例は「設計の参考」、現在の予算は「今の見積もり」で考える
昔の施工事例にも、間取りの工夫、素材の組み合わせ、収納量、暮らし方を知る価値はあります。一方、掲載金額は現在価格を保証するものではありません。
事例を見るときは、少なくとも次を分けて確認します。
- いつ契約・着工した工事か
- マンションか戸建てか
- 専有面積・延床面積と工事範囲
- スケルトンリノベーションか部分工事か
- 設計料、設備、造作家具、諸経費を含むか
- 解体後の追加工事を含む最終金額か
- 消費税を含むか
「当時700万円だったから、今も700万円でできる」とは限りません。同程度の条件で現在の概算を取り、物件購入費・諸費用・予備費を含む総額で判断する必要があります。
リノベーション工事費が上がってきた主な背景
工事費の変化を一つの理由だけで説明することはできません。資材費、設備費、労務費、工期、法令対応などが重なって金額へ反映されます。
資材・住宅設備の価格が上がっている
木材、合板、断熱材、電線、コンクリート、住宅設備などの価格は、原材料費、エネルギー価格、為替、輸送費、需給の影響を受けます。すべての品目が同じ時期に同じ割合で動くわけではありませんが、工事全体では複数の値上げが積み重なります。
一般財団法人建設物価調査会の建築費指数では、東京のRC造集合住宅の工事原価指数は2015年平均を100として、2025年平均が138.4、2026年3月が143.3(暫定)でした。これはマンションリノベーションの見積額そのものではありませんが、建設工事を取り巻く材料・労務コストの長期的な変化を知る目安になります(建設物価 建築費指数 2026年3月分)。
人件費・労務費が上がっている
リノベーションには、大工、電気、設備、内装、左官、塗装など多くの職種が関わります。技能者不足や賃金改善の動きは、適正な工事費を考えるうえで無視できません。
国土交通省が公共工事の積算に使う2026年3月適用の公共工事設計労務単価は、全職種平均で前年度比4.5%上昇し、14年連続の引き上げとなりました(国土交通大臣会見要旨・2026年2月20日)。
公共工事設計労務単価は、民間の住宅リノベーション見積もりにそのまま使う単価ではありません。ただし、建設分野全体で労務費を適正に確保する方向が続いていることは読み取れます。
建設業の残業規制に合わせ、無理のない工期が必要になった
建設業には2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。厚生労働省は、規制を踏まえて発注者にも適正な工期設定への協力を求めています(建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています)。
これは働く人の健康を守り、将来の担い手を確保するための制度です。「残業規制があるから、すべての工事が一律に値上がりする」という単純な話ではありません。一方、短すぎる工期を長時間労働で補う前提にはできないため、人員配置や工程管理を含めた現実的な工期が必要になります。
4号特例の見直しは、該当する木造戸建ての大規模リノベに影響する
2025年4月の制度改正により、木造戸建ての大規模な修繕・模様替えでは、建築確認手続きが必要になる場合があります。対象工事では、事前調査、図面、構造の確認、申請期間などを見込む必要があります(国土交通省「建築確認・検査の対象となる建築物の規模等の見直し」)。
ここは対象を広げて考えないことが大切です。一般的な中古マンションの内装リノベーションすべてに4号特例が関係するわけではありません。また、木造戸建てでも工事内容によって確認申請の要否は異なります。該当する可能性がある場合は、物件購入前に建築士へ確認します。
物価上昇が設計・運送・現場経費にも影響する
工事現場では、材料や職人だけでなく、燃料、運送、養生、廃材処分、設計・現場管理などにも費用がかかります。総務省の消費者物価指数は建設費そのものを示す統計ではありませんが、生活やサービス全体の物価環境を確認する資料になります(総務省統計局「消費者物価指数」)。
リノベーション費用を考えるときは、一般的な物価と、建設分野固有の資材・労務データを混同しないようにします。
工事費全体が大きく下がるのを待つべきではない
本サイトでは、リノベーション工事費が以前の水準まで大きく下がるのを期待して、計画を先送りすることは勧めません。一度上がった工事費は、一部の資材価格が落ち着いても、総額としては現在の水準を維持する可能性が高いと考えるからです。
個別の資材価格が下がる場面はあります。たとえば、円高が進む、原油・電力・海上運賃が下がる、資材の供給不足が解消する、住宅需要が弱まる、生産や施工の効率化で必要な作業時間が減る、といった変化です。
しかし、リノベーションの見積もりは資材費だけではありません。職人の労務費、設計、現場管理、運送、廃材処分、法令に対応するための調査・申請なども含まれます。工事総額が以前の水準まで下がるには、複数の費用が同時に下がり、その削減分が見積もりへ反映される必要があります。
実際、国土交通省の2026年7月調査では、主要建設資材の需給は均衡している一方、価格は多くが横ばいで、アスファルト合材、鋼材、型枠用合板など一部は「やや上昇」でした(国土交通省「主要建設資材需給・価格動向調査」)。また、建設業では担い手確保のために適正な労務費を確保し、資材高騰時には価格転嫁する制度整備が進んでいます(国土交通省「第三次・担い手3法」)。
日本銀行も、物価上昇率が中期的に2%程度へ向かう見通しを示しています(日本銀行「展望レポート・ハイライト(2026年4月)」)。個別資材が値下がりしても、人件費やサービス価格を含む工事総額が広く以前の水準へ戻る材料は、現時点では多くありません。
したがって、本サイトの判断は「工事費は毎年必ず上がる」ではなく、多少の上下はあっても、工事全体が大幅に安くなることを前提に待つべきではない、というものです。職人の賃金を再び低くする、適正な工期を無視する、品質管理を削ることで安さをつくるべきでもありません。
将来価格の予測ではなく、次の二つを分けて考えます。
- 今の収入・貯蓄・生活計画で無理なく進められるか
- 今の候補物件と希望工事を、現在の見積もりで実現できるか
どちらかが整っていなければ見送る判断も必要です。反対に、条件が整っているなら「安くなったら始める」ではなく、現在の価格で成り立つ物件・工事・資金計画をつくる方が現実的です。値下がりへの期待だけで待つと、住み替え時期や希望物件を逃す可能性があります。
古い施工事例の金額を比較するときの5つの確認項目
金額の基準日を確認する
完成日だけでなく、見積もりや契約がいつの価格かを確認します。工期が長い案件では、完成年と価格を決めた時期が異なることがあります。
金額に含まれる範囲をそろえる
工事費のみか、設計料・諸経費・設備・造作家具・消費税まで含むかを確認します。別途工事が多い事例と、最終総額に近い事例は同じ土俵で比較できません。
面積単価だけで判断しない
同じ70㎡でも、水まわりをすべて移動する工事と、既存位置を活かす工事では金額が変わります。戸建てでは耐震・断熱・屋根・外壁、マンションでは管理規約・配管・搬入条件などの差もあります。
同じ会社の現在事例・価格案内も見る
古い人気事例だけでなく、直近の施工事例や現在の料金案内を確認します。現行価格が公開されていなければ、希望条件を伝えて概算を取ります。
候補物件ごとに概算を更新する
物件を決める前に、実現したい間取りや性能を整理し、候補物件で可能かを確認します。購入後に工事費が合わないと分かるのを避けるには、物件探しと設計・工事の検討を並行することが重要です。
値下がりを待つより、総予算に合う選択肢をつくる
予算が合わないときは、工事単価が下がるのを待つ以外にも調整方法があります。
- 物件価格の上限を見直す
- 対象エリアや駅距離、築年数の条件を広げる
- 既存の間取りや設備を活かせる物件を選ぶ
- 暮らしに直結する工事と、後からできる工事を分ける
- 造作と既製品を使い分ける
- 断熱・配管・下地など、完成後に変えにくい部分を優先する
- 追加工事に備える予備費を残す
大切なのは、単に工事を削って安くすることではありません。完成後の暮らしに必要なことへ予算を配分し、物件と工事を合わせた総額を調整することです。
具体的な費用項目は中古マンション購入+リノベーションの総費用、見積もりが膨られやすい場面はリノベーションの予算オーバーを防ぐ方法で解説しています。
相談時に聞いておきたいこと
施工事例を見せてもらうときは、次のように質問すると現在の予算へ置き換えやすくなります。
- この事例はいつ契約した価格ですか
- 現在、同じ面積・工事範囲ならどの程度が目安ですか
- 掲載金額に含まれない費用はありますか
- 仕様変更や解体後の追加で、最終金額はどう変わりましたか
- 見積もり後に価格改定があった場合、契約金額はどう扱われますか
- 候補物件を購入する前に、工事の概算と、希望する工事ができるかを確認できますか
ワンストップリノベーション会社であれば、物件探しの段階から購入費用と工事費の配分を相談できます。会社選びでは価格の安さだけでなく、見積もりの範囲、調査体制、追加費用の説明、施工管理、保証まで確認してください。
まとめ
昔のリノベーション事例は、間取りや暮らし方を考える材料として役立ちます。しかし、掲載金額は現在の見積もりではありません。
資材・設備、労務費、適正な工期、法令対応など、工事費を構成する条件は変化しています。一方で、将来の価格が必ず上がるとも、下がるとも断定できません。
「安くなったら始める」ではなく、現在の候補物件と希望工事で概算を取り、無理のない総予算をつくる。その結果として今は見送るのか、条件を調整して進めるのかを決める方が、再現性のある判断になります。
物件を購入する前に相談する理由はリノベーション会社にはいつ相談する?、物件探しと工事を分ける場合との違いはワンストップと分離発注の比較も参考にしてください。
※記事内の制度・指数は2026年8月10日時点で確認した公開情報に基づきます。個別の工事価格、建築確認の要否、工期は、物件・地域・工事範囲・施工会社により異なります。


